2015年1月20日火曜日

パート紹介文に関する釈明

ドンファンの闇に呑まれてめっきり更新が途絶えたのうみです。第196回定期演奏会をお聞きくださったみなさま、どうもありがとうございました。
今回はプログラムに載せてもらったものの訳がわからないといろいろな所で言われるVaパート紹介文に、註を付けてみました。演旅JPの記事はまた今度。

(本文)
むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました(*1)。おじいさんは森へフェルナンブーコ(*2)刈りに、おばあさんは洗濯をしに行きました。
おじいさんは野山に分けいって、フェルナンブーコを刈りはじめました。すると、元の方が光っているフェルナンブーコを見つけました。不思議に思って近付いて見ると、幹の中が光っていました。見れば、光る弓がつつましく鎮座しているではありませんか。「わしが毎朝毎晩見ているフェルナンブーコの中にいたから出会ったのだ、これはわしのものになるべきものに違いない」と言って、手に持って帰りました(*3)。
おじいさんは刈ったフェルナンブーコを弓業者に売ってマージンを得ています(*4)。しかし今やフェルナンブーコは絶滅危惧種。無認可の伐採は違法行為であり、夫婦のしていることは白日の元に晒せない闇の稼業でした。
おばあさんは将来への漠然とした不安を覚えて上流に目を向けました。すると、大きなViola(*5)がどんぶらこどんぶらこと流れてくるではありませんか。おばあさんは何も見なかったふりをして視線を元に戻しましたが、何度見てもViolaは近付いてくるばかりです。やがてViolaはおばあさんの立つ川岸に漂着しました。おばあさんはしばらくの間逡巡しましたが、荷台にそれを乗せて家に持ち帰ることにしました。
上機嫌で家に帰ってきたおじいさんでしたが、せせこましいリビングを象のようなスケール感のViolaが占拠しているのを見てゆかいな気分も消し飛んでしまいました。
「何じゃこれは。こんなばかみたいに大きなViolaを一体どこで拾ったんじゃ」
「じいさんや、わしゃいつも通り川で洗濯をしていたんじゃが、そしたらこれが川をどんぶらこっこと流れてきたんじゃ」
Violaは大きいのだけが取り柄の楽器(*6)でしたが、こうも大きいとどうしようもありません。それに、このViolaはもうほとんど朽ちかけていました。表板はところどころ穴が空いてているし、指板も剥がれてしまっています。もう楽器としては機能しそうにありません。二人はこれを解体して薪にすることにし、おじいさんがマチェーテ(*7)を振りかざしてViolaを斬りました。すると、中から金色に光る常識的なサイズのViolaが出てきたではありませんか。
おじいさんとおばあさんは毎日のように光るViolaを見つけました。おじいさんとおばあさんはその一部を売ったお金で孤島に移り住み、幸せに暮らしはじめました。大きな桃から生まれた少年が、富の再分配を求めて獣とともに島に乗り込んだのは、その数年後のことだったと伝えられています(*8)。

*1)練習であわあわしているうちに何のネタも浮かばないままパート紹介の〆切当日(というか翌日深夜)になり、もう絵とか写真とかアレする時間もないし童話パロディくらいしか出来ないと思った。本来パート(員)を紹介する文であるはずが先期からただのびよらジョークになっているのは私のせいだ。
*2)フェルナンブーコ…別名ブラジルボク。弓の材料として使われているが近年絶滅危惧種に(乱獲のためか)。勝手に刈ったら捕まるかどうかは知らない。
*3)「……その竹の中に、本光る竹ひとすぢありけり。怪しがりて寄りて見るに、筒の中ひかりたり。それを見れば、三寸ばかりなる人いと美しうて居たり。翁いふやう、「われ朝ごと夕ごとに見る、竹の中におはするにて知りぬ、子になり給ふべき人なンめり。」とて、手にうち入れて家にもてきぬ。……」
*4)ついカッとなってクソみたいなネタを入れた。反省している。
*5)Siriに「お話して」って話し掛けたら出てくるアレに倣って英語表記です。あと某すーぱーびよりすと様(Va.6)に「大きなViolaって書いてあるからkndo(Va.6)かと思った」って言われたのですが、違います(でも来期はそのネタでいこうかな)。
*6)とても基礎的なびよらジョーク。
*7)マチェーテ…中南米で使われてるナタ。たぶん友人と『マチェーテ キルズ』というクソ映画を観た名残だと思う。
*8)よいオチが浮かばなかったから元ネタ②である桃太郎に接続。



おまけ(自粛バージョン)

むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。おじいさんは山へフェルナンブーコ刈りに、おばあさんは洗濯などをしに行きました。
おじいさんは野山に分けいって、フェルナンブーコを刈っては弓職人に売っていました。おじいさんは元の方が光っているフェルナンブーコを見つけました。不思議に思って近付いて見ると、幹の中が光っていました。見れば、光る弓がつつましく鎮座なさっているではありませんか。「わしが毎朝毎晩見ているフェルナンブーコの中にいたから出会ったのだ、これはわしのものになるべきものに違いない」と言って、手に持って帰りました。
おばあさんは川で洗濯を済ませると、流れる水面に目をこらしました。おばあさんは上流から流れてくるフェルナンブーコの枝葉をネットですくいとるのが日課でした。今やフェルナンブーコは絶滅危惧種です。迂闊に刈れば警察がやってきて夫婦ともどもお縄になってしまいます。おじいさんとおばあさんがやっていることは、白日の下に晒すことのできない闇の稼業でした。
おばあさんはふと将来への漠然とした不安を覚えて上流に目を向けました。すると、大きなViolaが流れてくるではありませんか。おばあさんは何も見なかったふりをして視線を元に戻しましたが、何度見てもViolaは近付いてくるばかりです。やがてViolaはおばあさんの立つ川岸に漂着しました。おばあさんはしばらくの間逡巡しましたが、荷台にそれを乗せて家に持ち帰ることにしました。
上機嫌で家に帰ってきたおじいさんでしたが、せせこましいリビングをContrabassめいて大きなViolaが占拠しているのを見てゆかいな気分も消し飛んでしまいました。
「何じゃこれは。こんなばかみたいに大きなViolaを一体どこで拾ったんじゃ」
「じいさんや、わしゃいつも通り木の枝を網で拾っとったんじゃが、そしたらこれが川をどんぶらこっこと流れてきたんじゃ」
Violaは大きいのだけが取り柄の楽器でしたが、こうも大きいとどうしようもありません。それに、このViolaはもうほとんど朽ちかけていました。表板はところどころ穴が空いてているし、指板も剥がれてしまっています。もう楽器としては機能しそうにありません。二人はこれを解体して薪にすることにし、おじいさんがマチェーテを振りかざしてViolaを斬りました。すると、中から金色に光る常識的なサイズのViolaと元気な赤ん坊が出てきたではありませんか!
「この子とViolaはわしが毎日見ていた川に流れていたから出会ったのじゃ、わしらの子になるべき方に違いあるまい」
おじいさんたちはその赤ん坊をViola太郎と名付けてました。
その後おじいさんは業者に渡すフェルナンブーコをくすねては金の弓の模倣品を作り、それが大人気を博してひと財産を築きましたが、弓職人ギルドに目を付けられて殺されてしまいました。おじいさんの死体はフェルナンブーコの枝に、はやにえよろしく飾られました。
ある日のこと、おばあさんはViola太郎の手を引き、放火され燃え盛る家から隠し戸を使って抜け出しました。家の中には、ダミーとして用意したサルの親子の死骸が残されています。
ごうごうと音を立てる炎を背に、おばあさんはViola太郎の肩に手を置いて言い含めます。
「わしがお前を育てられるのはここまでじゃ、Viola太郎。幸いお前には未来がある。ギルドの狗どもにも顔を覚えられてもいなかろう」
そしておばあさんはViola太郎に金の弓と金のViolaを渡しました。この楽器と弓は、国内の腕こきViolistが寄ってたかって弾いてもノコギリのような音しか出ないのに、Viola太郎が弾くとこの世のものとは思われぬほど美しい音色が立ち上るのです。
「これを持って、どこかの楽団に転がりこむんじゃ。サーカスでもいい。お前は珍しがられ、重宝されるじゃろう。そして大人になるまで生き延びるんじゃ」
Viola太郎はそれを抱えました。おばあさんは満足そうに頷いて、短い抱擁を交わしました。そして、厳しい目でViola太郎を見据えて言いました。
「最後にお前に言っておかなければならんことがある」

「俺が四つの時だった」
立派な青年に成長したViola太郎は弓職人街を見据えながら、背後にいる狂犬たち、飢えた猿たち、意味もなく威嚇行動を繰り返すキジたちに語りかけました。その手には金のViolaが握られています。
「そしてばあさんは言ったのさ」
彼の手のなかでゆらめいていた松明が地面に落ちました。火は瞬く間に燃え広がり、けだものたちが一斉に飛び出して職人街へと向かいました。
「目には目を、歯には歯を、って」